歯のお話
『お口と飲み薬の関係』
現代社会において、多くの方は様々な病気を抱えていて、それに伴って多くの薬を服用しています。今回から、そういった全身疾患に伴うお薬とお口の関係をお伝えします。
降圧剤(高血圧)
血圧とは文字どうり血管の壁面にかかる圧力であり、高齢者になるほど血管の伸縮性が低下するため上昇します。現在の高血圧患者は約3500万人以上とも言われています。その為、多くの方が降圧剤を服用されています。
歯科治療においては血圧のコントロールさえできていれば治療は可能と言われていますが、急なストレスを与えられたら血圧が急上昇してしまうため、治療は慎重に行われます。場合によっては血圧や心拍数を図りながらの治療も行うことがあります。
ただし、高血圧患者の場合は合併症(心筋症や心筋梗塞など)を併発している場合もあり、そういった患者には抜歯などの観血処置を行えない場合もありますので、問診の際に必ず主治医にお伝えください。
いずれにしても、歯科治療には、歯以外の多くの情報が必要です。ご自分のお体を守るためにも、正確な情報をお伝えください。
血糖降下薬とインスリン(糖尿病)
糖尿病は予備軍も合わせると全国に2000万人もいると言われています。膵臓から分泌されるインスリンの作用が不足することにとって起こります。血糖値のコントロールがされないと、様々な全身疾患(脳卒中、心筋梗塞など)を引き起こします。
通常においては歯科治療は可能とは言われていますが、重度の糖尿病患者では傷口が治りにくいなどの治癒遅延を引き起こすために注意が必要です。また、血糖値がコントロールされていないと急な低血糖により気を失うなどの昏睡に陥ることもあります。
歯科と糖尿病の関係は実は深く、特に歯周病菌を減らすことによって糖尿病が軽減した、という報告もあります。
糖尿病の症状の変化によって、お口の中も変化しやすいので、歯科治療の際は歯科医師にその旨をお伝えするようにお願いいたします。
ビスホスホネート系薬剤(骨粗鬆症)
最近多くの患者さんに処方されている薬剤が、ビスホスホネート系製剤(BP薬)です。これは骨粗鬆症の患者に処方される薬剤で、歯骨細胞の活動を阻害し、骨の吸収を防ぐ医薬品です。
BP薬を長年使用してきた患者さんは、歯を抜いた時など顎骨が露出した時に炎症が生じて治りにくくなることがあります。ひどくなると顎骨壊死を起こし、重篤な障害となります。
壊死が起こる可能性は非常に稀なのですが、現代の歯科治療においては抜歯などの治療をする際には数か月にわたる服用中止、または代用薬物の変更が推奨されております。もちろん、歯科医師単独での中止などはできませんので、主治医の先生との連携を行った後に治療を行っていきます。
歯のお掃除などは、BP薬を服用されていましても多くが可能です。歯の抜歯を避けるためにも定期的に歯医者に通いメンテナンスを行いましょう。
抗血栓薬(心筋梗塞、心不全、脳梗塞)
現在日本において、脳梗塞や心筋梗塞などの血栓性患者が増えており、それに伴って抗血栓薬(ワーファリンなど)を日常より服用されている患者が多くおられます。そういった方は、抜歯などの観血処置(出血を伴う治療)の際には特に注意が必要です。
抗血栓薬の作用により、抜歯の際には血が止まりにくくなります。以前には、抜歯の際には抗血栓薬の服用を中止して治療を行っておりました。しかし、現在ではほとんど行われておりません。
抗血栓薬を中止することによって、脳梗塞や心筋梗塞の発生リスクが上がるために、服用は中止せずに抜歯を行ったほうがよいとされてます。ただし、その際には止血はしにくいので、内科・循環器科の先生との相談の上にて抜歯を行わなくてはいけません。
症状の重篤度によっては、口腔外科での全身管理の元での抜歯も必要な時もあります。治療の際には歯科医師とよくご相談ください。
ステロイド(ぜんそく、リウマチ)
ステロイドは、副腎から作られる副腎皮質ホルモンの一つです。免疫反応を抑えて炎症やアレルギーのかゆみを軽減したり、喘息やリウマチの症状を抑えたりする作用があります。
アレルギーを多くお持ちの現代社会の方々に大変有用な薬ですが、副作用として免疫の低下があります。細菌が活発になるため歯周病が発生しやすく、抜歯の際にも細菌感染を起こしやすいため重症化しやすくなります。
抜歯の際には、事前に細菌に対する抵抗力をつけるために抗菌薬の予防投与を行います。また、治療の際にストレスによるホルモン不足を引き起こす可能性もあるために、ステロイドの補充を行う可能性もあります。
主治医の先生との連携も不可欠なので、治療の際にはご相談をお願いいたします。
肝臓障害・腎臓障害の薬
歯科治療において、様々な薬を処方しますが、肝臓障害や腎臓障害の薬を服用されている方は注意が必要です。
こういった方は、肝臓や腎臓の機能が低下しております。薬は体内に入った後に薬効を発揮し、その後肝臓や腎臓を介して代謝・排泄されます。それが不十分だと、体内濃度が高まるため副作用や中毒症状を引き起こすことがあります。
そういった方には、影響の少ない薬に変更したり、量を少なくしたりして対応します。内科主治医との相談の上で、服用自体にも注意することもあります。
透析を受けている患者はさらに注意が必要です。細菌感染が起こりやすく、ドライマウスにもなりやすくなります。軽度の治療は行えることが多いのですが、抜歯になると出血しやすくなるなどの合併症もおきやすいです。透析で時間がかかるので、歯科に通いにくいといった問題もあります。
お忙しい中でしょうが、定期的なメンテナンスをしていただき、お口の状態を維持していただきますようお願いいたします。